野田地図「キル」

先日、野田地図「キル」(作・演出=野田秀樹、出演=妻夫木聡広末涼子勝村政信、ほか)を観てきた。商業演劇をなまで観たのは初めてだったので、感激しながら見た。なるほど~と感心することも多くて。ニ幕あって、僕はどちらかというと第一幕の前半と、第二幕のラストの場面がぐっときた。

野田氏の脚本には、言葉あそびが過剰に渦巻いていて、一つ一つの言葉が何を意味しているのか追いかけていると、芝居の流れから置いてかれるような感じがした。
帰り際に、前を歩いていた女性たちは「途中から見てるのが辛かったわ」と厳しいことを言っていた。ある男女は、何かの解釈をめぐってそれぞれの意見を交わしながら納得を得ようとしているみたいだった。
でもあの芝居の中で「ミシンを踏む」「征服する(制服を着せる)」「生きる・着る・斬る」「青き狼・青い狼」という言葉たちは、とても比喩的だったり象徴的だったりするから、あまり一義的に解釈しなくていいんじゃないかと僕には思える。過剰な言葉の渦にたゆたうことが出来るかどうかが、分かれ目なのかも知れない。
ちなみに僕なりに解釈すれば、あれはグローバル化する社会の中で肥大化していく自己が、自己の幻影に悩まされるという病を抱えていて、そんな現状を打破するには、まず肥大化している自己を認識して、もう一度裸に戻れよ、素の自分を知れよ、といった批評的な内容だったのかな?と。

それより、何といっても、妻夫木聡勝村政信が本当に素晴らしかった。声といい、その存在感が。
勝村政信演じる「結髪」が、文盲の「テムジン」(妻夫木)と「シルク」(広末)双方の恋文の代筆をするところが、おかしみに溢れていました。